大井川鐡道全線・寸又峡 一人旅
先日、1泊2日で静岡県の大井川鐡道井川線沿線を旅してきたので、今回は久しぶりに紀行です。片道5時間を超える移動を経て筆者が目撃した「この世のものとは思えない光景」とは果たして何なのか、井川線全線制覇+寸又峡を巡る旅をどうぞ。
乗り継ぎにつぐ乗り継ぎ
大井川鐡道井川線といえば、日本で唯一アプト式を採用していることや、湖の真ん中に位置する奥大井湖上駅の景観で有名な路線です。
一方で、もともと高速な路線ではないうえ、接続している大井川本線の一部区間が台風による影響でバスによる振り替え輸送となっているため、交通の便は決してよいとは言えない状況となっています。
まずはJR東海道本線と大井川鐡道大井川本線の接続駅である金谷駅を目指します。ここまでは新横浜駅から1.5h程度で到着でき、列車の本数もそれなりにあるので余裕です。
しかしながら、ここから井川線への連絡バスが出ている家山駅まで向かう列車は1日6本というなかなか厳しい状況になっています。筆者は予定より早く到着したのでここで時間をつぶそうかと考えたのですが、駅員の方から「隣の新金谷のほうがいろいろあるよ」と勧められたので、荷物を駅舎にあるコインロッカーに突っ込んで新金谷駅に向かうことに。なお、切符には「下車前途無効」的な表記がありましたが「駅員に途中下車と伝えてもらえればよい」とのことでした。

シートの破れが当て布を使って家庭的な感じに補修されている、非常に哀愁漂う車両で隣の新金谷駅に向かいました。なお、気動車ではなく「電車」です。

時刻は午前10時、何の計画もないまま新金谷駅にやってきました。新金谷駅には車両基地があり、大井川鐡道の様々な車両が置かれています。

いきなり南海電鉄の車両が出現したり

めちゃくちゃ味のある客車が置かれていたりと、確かに一見の価値のある駅でした。しかしながら、そんな車両たちを差し置いて最も印象的であったのは…

突然のトーマスです。大井川鐡道といえばトーマス号なんですが、筆者の頭の中からその情報が抜け落ちていたので、新金谷駅に入線するや否やトーマスが目に飛び込んで来た時はなかなかの衝撃を受けました。

このトーマス号、かなりディテールにもこだわっていて、近くで見てもめちゃくちゃ「トーマス」なんですよね。新金谷駅への入線時、このトーマスが転車台で回転していたのですが、転車台でトーマスが回転する姿はこの世のものとは思えない光景で、今回の旅で最も印象的な瞬間でもありました。

そんなこんなで約1時間が経過して午前11時過ぎ、川根温泉行の下り列車がやってきました。ここから家山駅を目指します。

家山駅から川根本町町営バスが出ており、これによって大井川本線の不通区間を越えるのですが、このバスも1日6本です。なお、町営バスなので乗り切れない場合は地元住民優先となります。バスはいわゆる「ふつうの路線バスサイズ」ですが、この日は平日(金曜)とは言えそれなりに観光客がいたので、紅葉シーズンの休日とかは乗り切れない場合もありそうです。

バスが来るまでの約25分は家山駅構内の味のある広告を眺めて過ごしました。こんな調子で多数の乗り継ぎを繰り返すたびに時間が消費されてゆくため、今回は日帰りは困難と判断して1泊2日となりました。さらに列車やバスの本数も決して多くはないため、すべてを公共交通に頼る場合は2日間でも名所2~3か所が限界というのが現実です。

午後12:50、井川線の始発駅である千頭駅に到着しました。筆者はここから再びバスに乗り、寸又峡温泉を目指すことにしました。

ここで、筆者のように井川線と寸又峡の両方を訪問する場合は周遊きっぷを買うのがお得なのですが、この周遊きっぷの販売場所がオンライン以外では井川線の千頭駅・奥泉駅・井川駅のみなので、寸又峡行きのバスが発車する13時までのわずかな時間で切符を買うことに。結果、発車1分前に購入という非常にギリギリな状況だったので、電子チケットの事前購入がおススメです。また、寸又峡温泉に向かう道はかなり狭いので、自家用車で行く場合は覚悟したほうがよさそうです。
「夢のつり橋」に絡む大人の事情?

そして、都内在来線→東海道新幹線→東海道本線→大井川本線→川根本町バス→寸又峡線バスと計5回の乗り継ぎ・約5時間を経て、第一の目的地である寸又峡温泉に到着しました。
ここに来た目的は「夢のつり橋」を見ることですが、その前に昼食を取ることに。

紅竹食堂にて渓流蕎麦を注文しました。様々な具材が乗った豪華な蕎麦で、かなりよかったです。あと「ゆるキャン△」で登場したらしいですが筆者は残念ながらアニメは守備範囲外なのでそれ以上の情報はありません。
夢のつり橋までは少し距離がありますが、一般車両は進入禁止なのでここからは徒歩での移動となります。

そして、寸又峡は保全協力金として「基本」500円を「任意で」徴収しているのですが…

この協力金収集の圧がやけに強いんですよね。協力金を支払うこと自体は賛成なんですが、近寄るや否やすごい勢いで領収書を手渡してくるうえに「協力お願いします感」がなく、さらに帰りには支払いを断っている人を目撃したことで非常に気分がよくなかったです。普通に「入場料」として強制徴収すればよいと思うのですが、様々な事情がありそうなのもなんかいやな感じでした。

なんかモヤモヤした気分を抱えつつ、夢のつり橋を目指します。直前までは平坦な舗装路ですが、つり橋前後は急な階段なので「運動に適した服装」のほうがよいでしょう。

つり橋直前にあった看板なのですが、そこには脅威の90分待ち表示。この日は平日だったので混雑はしていなかったのですが、つり橋に向かうまでに階段で2時間近く待つ時期もあるようです。正直なところ交通の便はかなり悪い場所なだけに驚きです。

14:30、遂に夢のつり橋に到着しました。

大間ダム湖にかかるこのつり橋は、青い湖面にかかるその美しい景色で知られる、寸又峡を代表する景勝地です。

そして、そんな「観光地」な割にはガバガバ設計なつり橋となっています。

こういうつり橋ってたいてい下にネットが張られていますが、スマホを落としたら普通に終わりな感じで、しかも人1人がやっとな幅しかありません。一方通行にはなっているのですが、誰か1人が止まれば進めなくなってしまうので、繁忙期には「渋滞」が多発し、結果的に2時間待ちが生み出されるようです。

つり橋手前には、建築用足場で作られた簡易的なものですが、真新しい展望台があります。

なお、つり橋を渡り終えた先には304段の急な階段が待ち受けており、さらに一方通行で引き返せないので、覚悟して向かいましょう。上から見た景色のほうが良いまであるので、つり橋までは下りないのも1つの選択肢かもしれません。

世にも珍しい「飲めます」表記の湧き水。

そんなこんなで、時刻は午後4時前。ほぼ移動で1日が終わった形になりますが、寸又峡温泉から再びバスに乗って宿に向かいます。
実家より「実家」な民宿

時刻は午後5時、運転士と地元住民が「あの有名人/TV局が井川線に来た」という非常にローカルな話を繰り広げるコミュニティバスに乗り、井川線奥泉駅にやってきました。

そして、筆者が今回選んだ宿はこちら、「民宿 奥大井」です。

何というか、言葉選びが難しいですが非常に「味のある」外観となっています。一方、各種レビューがかなり高評価だったうえに1泊2食付き8800円という圧倒的な価格に惹かれて予約してみました(あとネットから予約できる点も電話嫌いな筆者には大きい)。結果的に、これは当たりでした。

決して新しくはないですし、水回りは共同、Wi-Fiなんてもちろんなし(いちおう鍵はある)とカタログスペック的には微妙ですが、設備はよく手入れがされていて古いながらも清潔感がありました。

そして、数多のレビューで高く評価されていたとおり、食事が非常によかったです。地元の食材を使用した料理の数々は、この夕食だけで8800円でもおかしくないと思うほどのクオリティでした。

何なら朝食も豪華で、これで宿泊費込みで8800円ですからね。誇張なしで人生で最もよかった宿でした。

ちなみに、いい感じのバルコニーもあり「星空が見える」とのことでしたが、この日はあまり見えませんでした。
とりあえず終着駅まで行きたい
2日目は井川線の終着駅である井川駅を目指します。なお、井川駅に行く目的は「とりあえず端まで行きたいから」です。

大井川本線は1日6本でしたが、井川線はさらに本数が減少し、井川駅まで行く列車は1日2本となります。さらに、わずか約20km、自動車であれば30分程度の距離を移動するのに約2時間を要するため、井川駅まで行こうとするとそれだけで1日が終わります。

実際、奥泉駅にいた別グループは一人が自動車で先の駅に迎えに行くというような会話をしていたので、列車・バスのみで旅を完結させる人はそこまで多くはないのかもしれません。

井川線の車両は、その厳しい建築限界から非常に小型なのが特徴です。

客車ドアは手動開閉で、自分で鍵を開けて列車に乗り込むのは新鮮でした。

大井川沿いの曲がりくねった線路を進んでゆきます。

奥泉駅を出発してまもなく、アプトいちしろ駅に到着。この駅でアプト式機関車の連結を行います。

アプトの綴りって「ABT」なんですね(ドイツ語らしい)。

ここから90‰勾配区間に突入してゆきます。

90‰勾配は歩道や車道に比べればそれほどの斜度ではないですが、確かに列車でこの勾配はなかなかないですよね。

車内では観光客向けのアナウンスが行われていました、窓全開で走っている関係から騒音でちょっと聞きづらい感じはありましたが。なお、エアコンとかいう概念はないですが割と涼しかったです。

長島ダム駅で電気機関車を切り離し、まもなく奥大井レインボーブリッジを渡り奥大井湖上駅に到着します。

この駅は井川線一の観光スポットと言っても過言ではなく、筆者も湖の真ん中に駅がある景色を見たい気持ちはありましたが、何せ井川線は1日2本で途中下車したら1日が終わるのでパス。

奥大井湖上駅はダム建設に伴い新設された駅ですが、筆者は対岸にわずかに見える旧井川線のほうが気になりました。

旧線のトンネルまであってめっちゃ気になります…

奥大井湖上駅で大部分の観光客は下車し、人の少なくなった客車で森の中の曲がりくねった線路を進んでゆきます。

午前11時、終着駅の井川駅に到着しました。大井川本線と合わせて65kmの移動に実に4時間近くの時間を要したことになります。そして、折り返し上り列車は12:20発なので、1時間ちょいしか時間がありません。

井川駅より先の路線は廃止路線となっていますが、その跡がウォーキングコースとして整備されているようなので、そこを目指すことに。廃線跡の入り口は井川展示館の裏手です。

なお、井川駅の横にある井川湖には観光客向けの無料の渡船があるのですが、この運航が列車との接続を考えていない感じだったので利用しませんでした。やっぱり車で来る人が多いんでしょうね。

廃線跡にはフェイクのキロポストが設置されていました。

トンネルもあっていい感じの雰囲気ですが、注目してほしいのは横の信号機です。なんとこの信号機、光っています。

よく見ると線路脇に小型ソーラーパネルが設置されていたので、どうやらここから電力を供給して信号機を点滅させているようです。

トンネルの反対側にも信号機があり、こちらは赤現示になっていてこだわりを感じます。

そして、廃線跡の終点からさらに進んだところに井川夢の吊橋があります。
非常にややこしいですが、こちらは先ほどの寸又峡夢のつり橋とは異なるものです。Google Mapsには寸又峡夢のつり橋の写真が誤って掲載されているので実際に混同されているようです。

寸又峡のものを一回り小さくしただけの見た目なので、寸又峡が混雑しているならこちらで代用するというのもアリだと思います。

また、井川夢の吊橋を渡った先には謎のトンネルがありました。立ち入り禁止なのでどこにつながっているのかはわからないままでしたが。

井川夢の吊橋まで行ったせいで危うく列車に遅れそうになりましたが、何とか折り返しの上り列車に乗車。

そういえば坂を下る場合もアプト式機関車を連結するのだろうかと疑問に思っていましたが、同様に連結していました。まあ、さもなくば滑り落ちてしまうでしょうから当然と言われれば当然ですが。

車窓に茶畑を眺めつつ、静岡市内を目指します。

2.6tを載せられても余裕の表情。

途中、家山駅での待ち時間がヒマだったのと、昼食を取る時間がなく糖分が欲しかったので駅前にある駄菓子屋でしずおか茶コーラを買いました。ふつうのサイダーより100円以上高かったですが、味は…緑色のサイダーでした。
公共交通の限界
この後、浜松駅まで移動して新幹線で帰宅。なお、そのまま兵庫県まで向かった関係からこの日は7時間以上連続で列車・バス移動でした。鉄オタじゃない身としては相当な旅となりました。

そのうち井川→金谷のわずか65kmの移動で約4時間を要したわけですが、自動車であれば半分以下の時間で移動できるので、そりゃ自家用車主体になるよなと思いました、人数が多ければ費用もレンタカーとさほど変わらなさそうですし。私は運転が嫌いなうえ、1人なら公共交通のほうが安いので今後も交通の便の悪い場所に公共交通で行く趣味は継続していくつもりですが。
あと、トーマス号って乗ってしまえば「昔の客車」なわけで、大人にとっては味があって楽しそうですが子供はどうなんですかね…